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コロナショックで加速する賃貸不動産マーケットの大変化をチャンスに変える事業戦略
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いつもありがとうございます。船井総研の宮下です。
賃貸不動産ビジネスを専門とする経営コンサルタントです。
2021年の繁忙期も終わりました。コロナショック後、初めての繁忙期は、
「勝ち組」「負け組」の差を更に大きく分けるものだったと感じます。
今回のコラムでは、そのあたりの変化を簡単にまとめつつ、
その対策についてお伝えしてまいります。
1.賃貸仲介ビジネス・賃貸管理ビジネスで起こっている変化
2.巨大化する企業への対抗策
3.賃貸不動産ビジネスの「キャッシュポイント」が変わっている!
1.賃貸仲介ビジネス・賃貸管理ビジネスで起こっている変化
賃貸仲介ビジネスでは「地域一番企業が更に巨大化」しています。
10年くらい前から「賃貸仲介ビジネスでは地域内3社しか勝ち残れない」と
お伝えしてきましたが、銀行やコンビニなどと同様に、
「各エリアで上位3社が収益を上げ、他に6~7社程度しか勝ち残れない」
ようになっていくように感じます。
東京23区内除いた各地方は、「北海道東部」「北海道西部」「東北北部」「東北南部」
「北関東」「東京市部」「神奈川」「千葉」「埼玉」「東海」「北陸」「近畿」
「山陽」「山陰」「四国」「北九州」「南九州」「沖縄」といったエリアに分かれて
再編成されていくように思います。
賃貸管理ビジネスでは「メガオーナー法人が巨大化」しています。
個人でも100戸~500戸を所有するオーナーが出てきていますが、
加えて投資会社が1000戸規模で物件を所有するようになってきています。
要するに、賃貸不動産ビジネスが完全に不動産の枠を超え、
「金融ビジネス」に変わってきているということです。
このままいくと、資金力のある会社がたくさんの賃貸物件を所有するようになり、
更には中規模小規模の賃貸不動産管理会社をM&Aして巨大化するようになります。
そうなると、既存の賃貸管理会社・賃貸仲介会社は「下請け産業」になってしまいます。
2025年までに相続マーケットは140兆円とも言われています。
下手をすればこの5年で、
賃貸不動産マーケットの支配者・勝者が決まってしまうのではないかとも思います。
全国各地で賃貸不動産会社さまの経営のお手伝いをしている身としては、
分かっていてそんな事態になることは避けたいですから、ここから数回にわたって
その「対抗策」をお伝えしてまいりたく思います。
2.時流変化を捉えてチャンスに変え売上3倍増!を実現したS社さまの取り組み
「実際に成果をあげていらっしゃる賃貸不動産会社さま」の取り組みを例にお伝えします。
賃貸不動産マーケットの「相続・事業承継の増加」「長期空き室の増加」「インターネットでの情報流通による急速な成熟化」といった時流をしっかり捉えて「売上3倍増!」を達成された会社さまの取り組みです。
北海道・人口20万人のエリアにあるS社さまは、
売上5億円超、管理戸数3500戸超、スタッフ数50名(うちパート社員16名)の
地域密着の総合不動産会社さまです。
賃貸物件オーナーの不動産経営を「ワンストップ」でサポートするべく、
統括本部長によるアセットマネジメントチームが「要」になりつつ、
総合営業部、賃貸管理部、経営本部の3つの部門が一体化した
レベルの高いサービス提供によってオーナーの信頼を勝ち得ており、
安定的な成長を続けていらっしゃいます。
しかしながら、
10年ちょっと前、同社は会社始まって以来初の最終利益赤字となり、
事業拡大のために採用したスタッフが売上を上げることができずに
コストだけが膨れ上がり、なんと人件費比率70%という状態に陥っていました…
当時、S社さまの商圏ではITバブルなどでの影響で賃貸物件の新築が増えていましたが、
新築の賃貸マンションでも「敷金礼金仲介料ゼロ」「広告料6ヶ月」という異常事態になるほど需給バランスが崩れており、同社の管理物件800戸弱の入居率は82%まで落ち込んでいました。
当時のS社さまの商圏の入居率は72%(※)でしたので
同社は健闘しているほうだったのかもしれませんが、
5部屋中1部屋が空いている状態ではオーナーさんの賃貸経営は苦しく、
しかも高騰する広告料が賃貸経営を圧迫している状態となっていました。
(※)現在の日本全体の居住用賃貸物件の平均入居率は80%程度
そんななかで、入居率を上げるために管理物件の客付けを強化すべく
賃貸仲介部門のスタッフ増員を図ったわけですが、その試みは失敗。
強い競合会社がひしめく自社商圏内の賃貸仲介マーケットのなかで、
インターネット集客強化やオーナーへの空室対策強化が上手くいかず、
なんとか売上は横ばいを維持したものの増えた人件費をカバーできずに
最終利益が赤字となってしまいました。
この局面でのS社さまの判断は「賃貸仲介ビジネスからの撤退」。
自社が得意としていた「カラーリフォーム(※)」を武器として差別化するべく、
「空室対策での一点突破戦略」を掲げて全社一体化を推進されました。
(※)古くなった物件の各所にワンポイントのカラーを採り入れて、
物件の見栄えを大きく上げるリフォーム手法。
いまでは一般的になったが、日本で初めて同社が行なった。
そこから同社の快進撃が始まりました!
……とはならず、築25年以上が8割超を占める管理物件からは、
次々と供給される競合新築物件に負けて退去が止まらず、
“1室成約になっても1室退去が出る”といった状況が続きました。
それならば「出さない管理だ!」とのことで、
自社で中古のワゴン車を購入し、パート社員さん2名を採用し、
営業社員さんまで総出になって、まずは管理物件の清掃徹底を実施しました。
(そういえば、私も一緒に物件掃除を手伝ったこともありました。笑)
さらには、入居者同士の関係性を強化するために「挨拶看板」を作成して
全管理物件に設置しつつ、全戸に「挨拶運動」のビラを投函して徹底告知。
続いて、2年に1回の入居者満足度アンケートを実施してすべての回答に対応。
そのほかにも様々な取り組みを次々と実施していきました。
そしてついに、退去数は減少モ―ドに転換。
20%超あった退去率は、なんと「9%」までダウンし、
本当に退去の少ない賃貸管理専門会社になりました。
退去が止まれば、会社を挙げた「空室対策一点突破戦略」を推進する
同社の強みが効力を発揮し始めます。
気が付けば管理物件の入居率は95%超となり、
今度は空室対策を切り口に新たな管理物件の獲得を開始。
いまでは管理戸数は5倍になって、3500戸超になりました。
そして、営業利益率は20%超となり、
商圏内でトップグループに入る超健全・超安定の優良企業となりました。
3.賃貸不動産ビジネスの「キャッシュポイント」が変わっている!
そんな同社の現在の取り組みは「賃貸サブスクリプション」。
管理物件に入居を希望する方には「メンバーズクラブ」に入会いただき、
毎月3000円のメンバーズ会費をいただきながら、
様々なサービス還元を行なうことで「入居者満足度アップ」に努めています。
また、新たに創設する「オーナーズクラブ」では、
同様に戸当たり定額のオーナーズクラブ会費をいただいて、
今度はオーナーの満足度アップを図っていく予定となっています。
かっこいい言葉で言うと「テナントリテンション」。
S社さま流に言うと「出さない管理」。
そしてそれは、最新のビジネスモデルとして「賃貸サブスクリプション」に進化しました。
今後10年の賃貸不動産ビジネスでは、
「儲けどころ(キャッシュポイント)」が変わります。
そしてこの流れは、実は10年前から始まっており、
このコロナショックで加速度的に拡がっていきます。
この流れをつかむ会社は成功し、以前の流れにとどまる会社は衰退します。
今回のコラムのS社さまの取り組みを参考に、自社でも取り組みいただけたら幸いです。
(2021年4月1日、文責:宮下一哉)
宮下 一哉
1973年生まれ、神奈川県出身。 2002年に船井総研入社し、賃貸管理会社向けの コンサルティングに20年超従事している。 「マーケティング×マネジメント」視点での 総合的な差別化戦略構築により 「100億×100年企業づくり」をサポートし、 大手・中堅企業から全国各地の地域一番店の コンサルティングを担当。 「ビジョン経営」「DX」の推進などによる 社内一体化や高収益体質化を進めていく手法が 好評を得ている。